事例

【山形市】
官民連携で取り組む健康づくり支援事業

市民の健康づくりをポイント活動で支援する事業を実施し、「健康寿命をのばそう!アワード」で最優秀賞を受賞した山形市様にインタビューしました!

2025.2.19
医科学的根拠×官民連携の力が実現した、

楽しみながら健康づくりを支援するポイント事業“SUKSK(スクスク)

山形市では、「健康医療先進都市」を目指す市のビジョンとして掲げ、健康寿命延伸の取り組みを行っています。科学的な分析をもとに、民間企業の協力も得て進めたこの事業は大きな成果をあげ、令和5年「第12回健康寿命をのばそう!アワード」で最高賞となる厚生労働大臣 最優秀賞を受賞しました。受賞のカギともなったポイント事業の仕掛けと企業との連携、さらに今後の展望について、山形市役所 後藤様、大場様、そして山形市と連携協定を締結している医薬品卸バイタルネット 吉田様にインタビューしました。

■医療の強みと地域性を活かした健康施策
―健康ポイント事業“SUKSK(スクスク)”が生まれた背景を教えてください。

後藤様
:山形市では、市長が掲げた『健康医療先進都市』というビジョンを基に、地域資源を活用した健康施策を展開しています。
このビジョンの背景には、山形市が持つ医療的な強みと自然豊かな環境がありました。医療的な強みとは、東北初の重粒子がんセンターとなる山形大学医学部東日本重粒子センターを設置したり、総合病院が多く立地したりと、健康に資する設備が充実しています。また、平成31年に中核市となったことで山形市として保健所を設置できるようになりました。医師や保健師が増加して、科学的な分析ができるようになったことも強みのひとつです。加えて、豊かな自然がもたらす安心・安全な食材にも恵まれ、これらの地域資源を生かした健康づくり事業ができないかという思いから、健康ポイント事業“SUKSK(スクスク)”(以下、「SUKSK」と記載)は始まりました。

山形市健康医療部(山形市保健所) 次長(兼)健康増進課長 後藤 好邦 様



SUKSKというネーミングはユニークですが、どのような意味が込められているのでしょうか?

後藤様:山形市では、市民の健康寿命を延ばすために科学的なデータに基づいた取り組みを進めています。分析の結果、認知症、運動器疾患、脳血管疾患の3大要因が市民の健康を阻害しており、これらが全体の約8割を占めることが明らかになりました(平成28年度国民生活基礎調査)。この3大要因を抑制するためには、生活習慣病を予防することが重要です。そこで、食事(S)、運動(U)、休養(K)、社会参加(S)、禁煙と受動喫煙(K)の5つの要素を健康づくりの柱とし、それぞれの頭文字をとって「SUKSK(スクスク)と名付け、市民の自発的な健康づくり活動を促進する取り組みを始めました。

■「社会参加」と「二次元コードの活用」をキーに、事業を拡大
SUKSKポイント事業の具体的な仕組みや工夫について教えてください。

後藤様:SUKSKの目玉は、アプリを活用した健康ポイント制度です。歩いたり健康イベントに参加したりすることでポイントがたまり、一定数に達すると山形牛や温泉宿泊券が当たる抽選に応募できます。健康に興味が薄い方でも参加しやすいような仕掛けをしています。

大場様:また、このポイント事業の特徴は、『社会参加』へ幅を広げた点にあります。健康講座だけでなく、例えば地域で行われる蔵王山の清掃活動や、プロサッカーチーム『モンテディオ山形』のホームゲーム観戦もポイント対象にしました。環境課やスポーツ課など各部署と連携して対象事業を拡大することで、より多くの市民が健康づくりに取り組める環境を整えました。さらに、ポイント取得の仕組みには二次元コードを活用しています。例えば、町内会のイベントで二次元コードを発行し、市民がイベント参加時にポイントを取得できるようにしました。この仕組みのおかげで、いろいろなところでポイントを貯められるようになりました。バイタルネットさんにご協力いただいた、低山登山ハイキングもポイント対象ですね。

山形市健康医療部(山形市保健所) 健康増進課 SUKSK推進係 係長 大場 俊幸 様



      低山登山ハイキングの様子               ポイント取得風景

■各種検査よる予防事業にも取り組む
―ポイント事業以外にSUKSKではどのような取り組みを行っていますか?

後藤様:特定健診の会場で、食塩摂取量検査や唾液潜血検査を行いました。食塩摂取量検査では、市民の塩分摂取傾向に対する意識づけを行い、高い数値が出た方には減塩講座をご案内しました。また、唾液潜血検査は、歯周病の早期発見を目的とし、歯の喪失による認知機能低下や糖尿病予防として実施しました。 

■官民連携の強みを活かした健康施策の推進
―企業との連携についてのお考えを教えてください。

後藤様:
山形市では、複数の企業と協定を結びながら健康施策を展開しています。社会課題が多様化・複雑化する中で、行政だけで解決するのは限界があります。一方で、企業は専門知識や人的ネットワーク、さらに健康課題に精通した人脈を活用し、課題解決に貢献できる強みを持っています。そして、持続可能な経営をするには社会貢献が求められています。行政は情報の多さや信頼性を持っているという強みがありますので、両者が連携することで、WINWINの関係が築けるのではないかと思います。

―具体的にはどのような連携事例がありますか?

後藤様:
HPVワクチンの接種啓発では、医薬品卸バイタルネットさんの協力を得て、市民公開講座を実施しました。この講座では、山形大学の専門医を招き、ワクチンの有効性や安全性について科学的に説明するとともに、がん患者の体験談を共有することで市民の理解を深めました。また、広報活動や講座の企画段階でのサポートにより、より多くの市民にアプローチすることが可能となりました。市からの周知だけでなく、この講座を実施した効果は大きく、結果的に多くの市民から接種していただきました。
他の企業様との取り組みとしては、製薬企業様と足の健康に関するセミナーを通じて運動器疾患の予防を啓発しました。また、化粧品販売会社様とは、がん患者の精神的負担を軽減するための外見ケアに関する活動を行っています。

(株)バイタルネットと共催した市民公開講座

官民連携することで、職員の皆さまに変化がありましたか?

後藤様:
民間企業と一緒に取り組むことで、職員が民間のノウハウを学び、広報活動の仕方や市民のニーズを的確に捉える視点が身につきました。これにより、政策の周知やイベントの集客方法が大きく改善されました。
今は前よりも自治体と企業の距離が近くなっているように感じます。企業との連携はハードルが高く感じるかもしれませんが、企業の力を借りることで自治体の可能性がぐっと広がることを実感しました。お互いを刺激し合える、いい関係が築けると思います。

バイタルネット吉田様:医薬品卸の私たちにとっても、市民の皆さんに直接情報を届ける貴重な機会となりました。民間企業として、地域社会に貢献できる充実感を得られました。 


写真左 (株)バイタルネット 山形支店 支店長 吉田 隆 様

■企業とも連携して分析に基づく効果的な施策を実施したい
―山形市の今後の取り組みについて教えてください。

後藤様:
来年度からの健康づくり計画を進めるにあたり、エビデンスに基づく政策立案をさらに推進していきます。具体的には、マイナンバーカードを活用して健診データを取り込むことが可能になり、そのデータを詳細に分析して、より効果的な施策を実施していく計画です。ただ、市が現在保有しているデータは主に国保のデータであり、働き盛り世代の情報には偏りがあります。そこで、企業の協力をいただき、この世代の情報を収集・分析し、政策に繋げて効果的な事業にすることが大事であると考えています。
製薬企業であれば分析の部分や情報収集、医薬品卸企業であればHPVワクチンなどの流通状況に関するデータを迅速に収集できることで、適切な対策ができると考えています。それぞれの強みを持っている企業と連携し、課題解決に繋げていければと思います。



※記事中の所属名等は、インタビュー当時(2024年12月10日)の名称です。

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